Archivum 崩壊:スターレイル

(その2)

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統計によれば、退役雲騎が最も魔陰の身に陥りやすい集団だという。私は幸運にも第3次豊穣戦争を上手く乗り越え、今まで生き延び、年金までもらって、地衡司で豆粒ほどの仕事をしてつまらない日々を生きている。大きな過失さえなければ、次の琥珀紀までこの飯を食えるだろう、恐らくは。

官衙のガキどもは、私が普段から大雑把で、重大な事態にも動じないのを見て、「不死身の大毫」とあだ名して笑っている。さらには私がいつ「十王司」に連れていかれるのかを賭けの対象にまでしている。

長命種であろうと短命種であろうと、若者は「人生が終わる」ことに対して、クソほど何の考えも持っていない。「十王司」の冥差が目の前に現れた時、このガキどもはどんな顔をするのだろう。残念ながら、私の方がこいつらより先に行くのだが。

十王司……すべての仙舟人が最終的に十王司に迎えられることは知っているが、それがどうやって行われるのかは分からないままだ。

羅浮の都市伝説によれば、十王司は生死簿を見て人を冥府に連れて行き、今生における善悪の罪を数えるという。その判官と凡人は生きる世界が異なり、正面からぶつかっても分からないという……

話は最もだが、よく考えると疑問も多い:

仙舟の冥府とはどこだ?
彼らはなぜ、対象に魔陰の身が迫っていることが分かる?
彼らはどうやって対象の人生の些細な出来事、小さな徳や罪を統計し、学舎の先生がテストを採点するように、その人生に上中下の評価を下す?

はは、結局のところ伝説は伝説、すべては子供だましだ!


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だが、私は本当に十王司の冥差の姿を見たことがある。それも一度だけではない。

最初は地衡司の勤務を引き継いだばかりの頃、私は提灯を持った小さな子供たちが、閑雲天の街を歩いているのを見た。その時、洞天は夜で、月と星の光も消されていた。家々の戸窓は閉ざされ、人影も皆無だった。ただその子供たちだけが、深い暗闇から生まれたかのように音もなく歩き、その周りに小さな明かりがいくつか浮いていた。彼らの後をついて行く人物を私はよく知っていた。私の父だった。

私の父は646歳の時、突然おかしな事を言い出した。なぜ机にご飯をひっくり返したのか、なぜ彼の服を燃やしたのか、なぜ彼の玉兆をボール代わりに持っていったのか……それらは恐らく、私が10代の頃にしたやんちゃの数々だったが、今の私の記憶には残っていない。それから数日後、彼は食事をやめ、人にも応じず、ただ死体のように座っていた。誰も掃除をしていない壁の隅にできた蜘蛛の巣のように、ほこりが積もって生気の欠片もなかった。

私は彼に五衰の兆候が現れ、魔陰の身に堕ちかけていることに気づき、規則を延ばして丹鼎司の医師に診せ、まだ回復の可能性があるかどうかを確かめた。医者は何種類かの薬を処方した後、私の顔を見つめ、準備が必要だと言った。

「何の準備だ?」私は医者に聞いた。医師は慣れた顔で「準備が済み次第、お父上には迎えが参るでしょう」と言った。

私はその時、父に大限が来たことを理解した。仙舟の誰にでもその日が来ることは分かっていが、それが父の身に起こるとは、あまりに急すぎた。

私はテーブルの処方箋を手に取り、まるで師匠が弟子の仕事を確認するように眺め回した。すると、医者は突然手を伸ばして処方箋の端をつかみ、回収しようとした。彼女の意図は分かっていた。魔陰に入った者に、医者や薬は無用であると。しかし、私はその処方箋を放さず、口の中でつぶやいたのを覚えている。「この処方で、もう一度、もう一度だけ」彼女は私の頑なな態度を見て、手を引っ込めて注射薬を置いていった。

その後、あの子供たちと共に私の目の前を通り過ぎるまで、父は私と一言も会話をしなかったと記憶している。気のせいか、父は若くなったように思えた。仙舟人が若くなったと言うのもおかしな話だ。私たちは大人になれば、もう顔が変わることはない――ただし、その表情は変わるだろう。父の足取りは軽やかで、表情には安堵したような気楽さがあり、ほこりで埋もれていたシワも伸びたようだった。

私は口を大きく開けて父を呼ぼうとしたが、その言葉は喉に詰まって出てこなかった。すると、父が先に「達者でな」と軽い調子で言った。はっきりした声だった。私は彼の病気が治り、魔陰の身からなんとか戻れたのではないかと疑った。だが、それが自分の勝手な考えに過ぎないことは分かっていた。二人の子供がそばの提灯を吹くと、一瞬で辺りは暗闇に包まれ、父とその子供たちは最初からそこにいなかったかのように消えた。

私は夜勤の仕事も忘れ、闇の中に一人で突っ立っていた。半日後、私は突然医者の処方箋のことを思い出した。私はそれをずっと懐に入れていたはずだが、触ってみるとそれはそこにはなかった。